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脊髄

  1. 腰椎の形としくみ
  2. 腰部脊柱管狭窄症
  3. 腰椎椎間板ヘルニア
  4. 腰椎すべり症
  5. 腰椎分離症
  6. 頚椎症性神経根症
  7. 頚椎後縦靭帯骨化症
  8. 胸椎黄色靭帯骨化症
  9. 骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折

1. 腰椎の形としくみ

 脊柱(せきちゅう)は一般的には背骨と言い頚椎から尾てい骨までつながっていて、人間にとって身体を支え運動性を司り、神経を保護する役割を持っています。特に腰椎(腰骨)は重い上半身を支え、前後・左右へ大きく曲がり、身体の捻り(回旋)など柔軟性を持ち日常動作や運動に役立っています。反面、腰椎の病気の頻度が高くなる原因となり整形外科で扱う病気のなかでは最も一般的です。
腰椎は5個(4個または6個の場合もある)の椎骨よりなり、一番下は骨盤の一部である仙骨に連結されています。腰椎は前方に向かって凸にカーブを描き人間が立ったり歩いたりする時の姿勢を保つのに必要な形です。
背骨の一個一個は前方の椎体(ついたい)、後方の椎弓(ついきゅう)と棘突起(きょくとっき)、前方と後方をつなぐ椎弓根(ついきゅうこん)からなります。椎体は椎間板(ついかんばん)と靭帯によりずれないように連結されています。背中の中心に沿って触れる骨が棘突起で、棘間靭帯やその他の靭帯により椎骨の後方部分がつなげられています。前方部分と後方部分の空間が脊柱管(せきちゅうかん)となり脊髄神経が通ります。

 椎間板は上下の椎体をつなぐもので、適度な可動性を持ち、体を支え荷重など衝撃を和らげる役目を担っています。椎間板は二層構造になっており、中央部にある髄核とよばれるゼリー状の軟骨組織と、その周りをドーナツ型にとり囲む線維輪と呼ばれる線維軟骨組織からなっています。ちょうど最中の中の餡が髄核で、外の殻が線維輪というイメージです。椎間板は年齢とともに変性する運命にあり、変性が早く進んだり、傷がつくことにより、腰痛や下肢の痛み(坐骨神経痛)を起こすようになります。



2. 腰部脊柱管狭窄症

脊柱管(脊椎の骨の内部にある神経や脊髄の通り道)を構成する骨、椎間板、靭帯の変化によって、腰部脊柱管が狭くなる病気です。脊柱管が狭くなると、神経や脊髄が圧迫されていろいろな症状が出てきます。中年以降の男性に起こりやすく、最近は女性にも多くみられます。主な症状は腰痛、下肢痛、下肢のしびれ、下肢の冷感、肛門周囲のしびれ、排尿障害(夜間頻尿など)が挙げられますが、最も特徴的な症状は間欠性跛行(かんけつせいはこう)です。歩行により下肢の痛み、しびれ、脱力が出現し歩行困難になるが、しばらく休息すると症状が減弱し、歩行可能となる状態をいいます。歩行を再開するたびに同様の症状が繰り返し出現することが特徴です。似たような症状が出る病気としては動脈硬化などによる血管性の間欠性跛行があります。脊椎専門医を受診し、正確な診断を受けましょう。この症状があると夜間頻尿となることがあり、高齢者が夜間トイレに行くときに転倒し骨折するリスクが高くなります。夜間頻尿が腰部脊柱管狭窄症の手術後に改善することがみられ、頻尿は年のせいだと決め付けないで、主治医とよく相談されることをすすめます。診断にはやはりMRI検査がもっとも有効です。

腰部脊柱管狭窄症の治療

 軽症の場合は薬物療法、温熱療法、ブロック療法、装具療法など保存的治療が原則です。症状が進行する場合や排尿障害(頻尿や尿失禁など)が強い場合は、時期を逸せず手術に踏み切った方がよいでしょう。この病気は高齢者が多いため、糖尿病、高血圧、心疾患などの合併症の問題がありますが、たとえ80歳以上のご高齢でも手術、麻酔、術後のリハビリテーションに耐えられると判断された場合は手術に踏み切ってよいと言われています。

腰部脊柱管狭窄症に対する手術

 腰部脊柱管狭窄症の手術は基本的には、後方から骨を部分的に切除し、厚くなった靭帯も切除し、神経の圧迫を取り除きます。椎間板ヘルニアを合併している場合はヘルニアも切除します。当院では手術用顕微鏡を使用する方法と内視鏡を使用する方法の2種類の手術を行っています。狭窄の原因によっては内視鏡では困難な場合もありますが、顕微鏡では殆どの場合に対応可能です。患者さんに合った方法を選択します。また脊柱管狭窄に椎間不安定性を合併している場合は椎体間固定術を併用する場合もあります。

腰部脊柱管狭窄症に対する内視鏡手術

 腰部脊柱管狭窄症に対しても、椎間板ヘルニアと同様に内視鏡を用いた除圧術が可能です。約2cmの皮膚切開で筋肉切開は行わず、神経を圧迫している骨の一部と靭帯を切除します。内視鏡を傾けることにより、皮膚切開の反対側の神経の圧迫を取り除くことが可能です。術後の入院期間は7~10日です。欠点としては、3ヶ所以上の病変には対応できないことです。その場合は顕微鏡手術の適応となります。



3. 腰椎椎間板ヘルニア

 椎間板の変性があり、そこに急にあるいは慢性に衝撃が加わった場合、ゼリー状の髄核を包む線維輪が脊髄神経側に突き出たり、髄核そのものが線維輪を破りはみ出て神経を圧迫します。下肢の痛み(いわゆる坐骨神経痛)を伴った腰痛が一般的です。下肢の症状は片側のことがほとんどですが、両側が痛くなることもあります。下肢の筋力低下、知覚障害、しびれを伴うことが多く、まれに排尿障害(頻尿や尿失禁)が出ることがあります。診断はMRI検査が最も有効です。

左の写真で矢印が示しているところが腰椎椎間板ヘルニアです。腰椎変性疾患の中では最も多く、20~30歳代に起こりやすくなります。

腰椎椎間板ヘルニアの治療

 手術が最適な治療とは限りません。当院でも手術を行う確率は約20%です。80%以上は保存的な治療により自然治癒します。安静、薬物療法、牽引療法、筋力訓練、装具療法などがありますが、ライフスタイルに合った治療を主治医と相談して決められるとよいと思われます。痛みが強い場合はブロック療法を併用しながら、痛みをコントロールしますが、コントロールできない場合は手術が選択されます。
手術は、筋力低下がひどい場合や痛みに耐えられない場合、早期の社会復帰を望まれる場合、保存的治療を3ヶ月以上続けても症状が改善しない場合などです。例外的に、排尿障害がある場合は緊急手術が必要となります。

腰椎椎間板ヘルニアに対する手術

 神経を圧迫しているヘルニアを後方より摘出する方法が一般的です。通常の手術で十分治癒しますが、当院では患者さんに優しい手術として傷が小さいいわゆる低侵襲手術を行っております。手術用顕微鏡を用いる手術と内視鏡を用いる手術の2種類がありますが、患者さんのご要望も考慮して選択しております。

内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術

 約2cmの皮膚切開で、筋肉を切開することなく円筒型の筒を挿入し、その内部に内視鏡を固定し、テレビ画面で確認しながらヘルニアを摘出する方法です。内視鏡手術の利点は①術後の痛みが少ないこと、②早期離床、早期退院が可能なこと、③背筋のダメージがほとんどないので、早期社会復帰が可能なことなどがあげられます。術後7~10日で退院となり、患者さんの経済的負担を軽減することが可能です。



4. 腰椎すべり症

 腰椎すべり症は大きく分けて、分離すべり症と変性すべり症があります。分離すべり症は元々腰椎の分離があり、骨の連続性が失われ腰椎が前方にすべってきた状態で、第5腰椎に多くみられます。変性すべり症は分離を伴わないすべり症で第4腰椎に多く、中年以上の女性に多くみられます。症状はすべりによって脊柱管が狭くなるため、腰部脊柱管狭窄症と同様の症状(腰痛、下肢痛、下肢しびれ、間欠性跛行、排尿障害など)がみられます。はX線検査、MRI検査で比較的容易に診断がつきます。

腰椎すべり症の治療

 腰部脊柱管狭窄症などと同様に、コルセット装着、温熱療法、薬物療法、神経ブロックなどの保存的治療が原則です。症状が進行する場合や排尿障害が出現した場合は躊躇せず手術を受けられた方がよいでしょう。

腰椎すべり症に対する手術

 後方からの除圧術(顕微鏡下あるいは内視鏡下)、腰椎固定術、除圧術と固定術の併用などの方法があります。当院では傷を大きくしない(低侵襲)除圧、固定術を行っております。

腰椎すべり症に対する低侵襲腰椎後方椎体固定術

 背中の中心線より約4cm外側に約3cmの長さの皮膚切開をします。円筒型の開創器を入れて、その中で神経が圧迫されないように手術し(内視鏡下)、骨移植を行い、さらに椎間板に人工の椎間ケージを挿入して椎体間固定を行います。
 椎体固定を行った後、皮膚外側から特殊な器械を用いて上下の椎弓根(ついきゅうこん)をスクリュー(棒状の金属)で固定します。この操作により椎体固定の強度が補強され、また正常の形に近く戻すことができます。



5. 腰椎分離症

 腰椎の後方部分である椎弓と椎弓根の間(関節突起間部)の骨の連続が絶たれ、腰痛や下肢痛をひきおこす病気です。成長期のスポーツ活動などによる椎弓根部の疲労骨折が原因といわれていますが、先天性の素因も関連するようです。第5腰椎に起こることが多く、経過によっては腰椎が前方にすべって、分離すべり症になることがあります。症状は腰痛が主ですが、分離部の軟骨や骨が増殖して神経を圧迫すると下肢痛も出てきます。診断はレントゲン写真でつきますが、早期の分離症ではMRIやCT検査でないとわからないこともあります。

腰椎分離症の治療

 コルセット装着、薬物療法、筋力訓練等保存的治療が基本ですが、日常生活に支障がある場合や下肢痛が強い場合は手術も考慮されます。早期の分離症では、コルセットの装着により分離部の骨癒合が期待されますが、完全に分離してしまうと骨癒合は期待できません。ただし骨癒合しなくても痛みがなくて日常生活に不便がなければ手術は不要です。

腰椎分離症に対する手術

 保存的治療で効果がみられず、日常生活に支障がある場合は手術が選択されます。手術には、分離部を修復あるいは固定する方法、分離部で神経の圧迫がある場合は分離部での神経除圧術(内視鏡で手術可能)、椎間不安定性のある場合は腰椎固定術などがあります。どの方法を選ぶかは主治医とよく相談の上決定されるのがよいと考えます。



6. 頚椎症性神経根症

 椎間板ヘルニアや骨棘が脊髄から分岐して上肢に行く神経の根本を圧迫することにより、頚部や上肢の痛みやしびれ、筋力低下を引き起こす病気です。
若い人の場合は椎間板ヘルニアによることが多く、年長になると変形性頚椎症による骨棘(椎間板の近くの骨の出っ張り)によることが多くなります。
予後は良く、手術しなくても自然に改善することも少なからずありますが、経過が長くなったり、筋力低下がひどい場合は手術が選択されます。
手術法は前方からの固定術と後方からの除圧術がありますが、主治医とよく相談して決めましょう。
後方からの手術には、顕微鏡を使用する手術と内視鏡を使用する手術があります。



7. 頚椎後縦靭帯骨化症

 脊椎の骨同士を連結している靭帯(後縦靭帯といいます)が厚くなり骨に変化してしまう病気で、中年以後の男性に多くみられます。原因は不明ですが、遺伝やホル
モン異常などが関係しているといわれています。骨化が大きくなると、脊髄を強く圧迫し、様々な症状を引き起こします。
手指のしびれや、ボタンをうまく掛けれない、はしをうまく使えない、字がうまく書けないなどの巧緻運動障害(細かい動作ができない)がよく見られる症状ですが、重
症になると、歩行障害、排尿障害を引き起こします。
重症化すると、脊髄の機能が回復困難になりますので、脊椎・脊髄専門医を定期的に受診し、手術のタイミングを逃がさないことが大切です。



8. 胸椎黄色靭帯骨化症

 黄色靭帯が骨化し、脊髄を後方から強く圧迫し、重症化すると下肢の麻痺や排尿、排便障害を引き起こします。脊髄症状が進行してしまうと神経の障害が永続しますので、定期的に専門医の診察を受けて、手遅れにならない前に手術を受けましょう。



9. 骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折

骨粗鬆症について

 骨粗鬆症は骨がもろくなり、骨折を起こしやすくなる病気で、現在、日本では1,100万人とも1,300万人ともいわれる患者さんがおられます。骨粗鬆症の原因は、主に加齢、生活習慣(運動不足、食生活、喫煙、飲酒など)が考えられていますが、女性の場合は閉経後のホルモンバランスの変化などがあげられます。また、リウマチや腎臓病、膠原病などでステロイドホルモンを内服している患者さんにも起こりやすいと考えられています。



骨粗鬆症が進むと、骨折が起こりやすくなりますが、特に多いのは、背骨、手首、股関節の骨折です。


骨粗鬆症について

  

脊椎圧迫骨折について

 脊椎圧迫骨折は、背骨が押しつぶされて変形を起こす骨折でその主な原因は骨粗鬆症です。
 骨粗鬆症になると、しりもちはもちろん、くしゃみや不用意に重いものを持ち上げたり、体をひねったりの動作で背骨がつぶれることがあります。また、明らかなきっかけがなく、知らないうちにつぶれることもあります。

脊椎圧迫骨折について

  

脊椎圧迫骨折の症状

 骨折を起こすと、激しい腰痛や背中の痛みを起こしますが、痛みを感じない人もいます。安静にしていると痛みは治まることもありますが、つぶれた背骨の形は元には戻りません。
つぶれた背骨をそのままほうっておくと、背骨のバランスが崩れ、背中が丸くなり、また次々に背骨がつぶれるおそれがあります。症状が進行すると、内臓の働きが悪くなったり、睡眠障害、活動性の低下を起こし、さらに骨粗鬆症が進むといった悪循環に陥ってしまいます。



日常生活に及ぼす影響

  

脊椎圧迫骨折の治療法

①保存的治療法 
 コルセットやギプスをつけて、ベッドの上で安静にする方法が一般的です。骨粗鬆症に対する薬物療法も同時に行います。現在では骨粗鬆症に使われる薬が大変進歩しており、また種類もたくさんあります。どの薬が一番効くかどうかは個人差があります。主治医の先生とよく相談して決めてもらうことが大事です。

②手術的治療法 
 背骨に金属製のねじや棒を入れて、固定する方法が一般的です。変形が強いままで骨が固まってしまったり、不安定性が強い場合に選択されます。長期入院とリハビリが必要となります。



脊椎圧迫骨折の新しい治療法

 Balloon Kyphoplasty(バルーンカイフォプラスティ)、略してBKPといわれる手術が2011年より日本でも施行可能になりました。この方法は米国で開発された手術法で、日本語訳はいいものがないのですが、バルーン後彎矯正術(こうわんきょうせいじゅつ)というのがわかり易いと思われます。これは皮膚の上から直径4mmほどの筒をつぶれた背骨に刺しいれ、そのなかを通して風船(バルーン)を背骨の中に入れます。風船をふくらませることにより、つぶれた背骨を元の形に戻し、風船を抜いたあとの隙間に骨セメントを充填します。手術は30分前後で終わり、その日のうちに座ることができます。入院期間も短くてすみ、早く痛みがとれるので、今後発展していく手術と考えられます。


バルーン(風船)状の手術器具を膨らませた形



手術の方法

 手術は全身麻酔をして行ないます。ベッドにうつぶせに寝た状態で背中を2ヶ所(1cm程度)切開し、手術にはレントゲンの透視装置を使用します。

手術方法

実際の手術
手術方法