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野球肘

野球肘とは?

 「野球肘」と言っても、いくつかの種類があり治療方法が全く違います。
 休むのではなくストレッチなどをした方が早く治るもの、関節鏡などの侵襲の少ない新しい治療法で治せば早期に試合復帰できるもの、など様々です。「野球肘ですね。休みましょう」という選択肢はありません。待っていれば治る、と言うものではないのです。
 まずは早急にどのタイプの野球肘かを診断して、適切な治療方法を早く選択し開始することが必要です。

  

野球肘には「外側型」「内側型」「後方型」「尺骨神経型」があります。

  

(1)外側型野球肘

 「外側型野球肘」は離断性骨軟骨炎とも呼ばれるタイプで、肘の曲がる部分の軟骨を痛めてしまうタイプの野球肘です。ほとんどが小学校時に発生し、治しておかないと肘の変形や曲げ伸ばしの障害が進行しやすく、スポーツ選手の将来を大きく左右してしまうものなのです。
グラフは年代別で「どのタイプの野球肘が多いのか」をみたものです。

 赤い部分が「外側型野球肘」ですが、小学生受診者の3分の1近くが「外側型野球肘」なのです。

 早期に発見できれば問題なく治るのですが、高校になるまで放っておくとせっかく技術が上達しても、スポーツを断念しなくてはならない場合があり、痛みが続くときには「外側型野球肘」かどうかの早期発見、早期治療がとても大切なのです。

  

外側型野球肘かどうか?の早期発見方法は?
 外側型野球肘の初期はX線ではわかりません。MRI検査をすればわかりますが検査に時間がかかってしまいます。
 早期発見に威力があるのは、エコー(超音波診断)です。逆に言えばエコーで異常なければ外側型の可能性は低いので安心してよい、ということです。
 心配と思ったら、野球肘超音波診断ができる医療機関で診断を受けることをお勧めします。
 野球をしている小中学生の約5%に見つかりますが、初期で見つかりきちんとフォローすれば跡形もなく治って行きます。
 Aの写真ではBの写真で丸く写っている部分が凸凹になっています。
 これは、関節軟骨表面が痛んでいることを示すものです。
 また、私たちの研究で、X線で軽症に見えても、実際には重症で早く手術をすべきと言う例が多くみられることがわかりました。
 「外側型野球肘」での不安定型は、いくら安静にしていても治りません。無駄に時間を過ごす事にもなりかねないのです。手術をすべきかどうかの判断はMRI検査で行えます。

  

外側型野球肘に対する手術方法
 私たちの外来診察で外側型野球肘が見つかった場合、3割程度の方で手術が必要になります。野球肘検診で見つかった場合は初期の方が多いので手術になる頻度はそれほど高くはありません。(しかしストレッチやフォーム矯正などを厳密に行わなければなりません!)
 不安定型と判断された外側型野球肘に対する手術方法には以下のようなものがあります。

(1)骨切り法
 古くから行われている方法で傷んだ部分にあたる力を減らすため、骨を切って関節面をずらしてスクリューなどで止め治す方法です。病変部分の治癒は良好ですが切開手術のため傷が大きくスポーツ復帰には1年近くかかってしまいます。復帰自体ができない例もあります。

  

(2)関節鏡視下小頭郭清/ドリリング法
 約4mmのわずかな切開で、関節を用いて、痛んで不安定になってしまった骨や軟骨部分、剥がれた部分を摘出、母床部分を郭清し、そこに1mm程のドリルを10カ所ほど作成し、骨髄部分から修復能力の高い細胞や成分を関節面部分に誘導し再生修復させる方法です。
 2〜4ヶ月で投球に復帰します。年齢が低いほど修復が良好です。

  

(3)骨軟骨移植
 痛んでいる部分が広い場合や学年が高い場合には(2)の手術では修復が見込めない場合があります。このようなときには、からだの他の関節から関節軟骨と骨の小さな柱を採取して埋め込みます。クッキーの型抜きのような道具を使用します。

  

(2)内側型野球肘

 肘が痛いと言って来院されるスポーツ選手の中で最も多いものです。
 内側型野球肘は肘の内側に原因がある野球肘ですが、その大多数は肘の内側の骨につく腱や筋のタイトネスによるものです。ストレッチ不足やフォームの異常が元になっています。
 投球動作では肘より先の前腕部分が外側に曲がるように力がかかります。
 そのため、MRI検査で骨の部分が異常輝度で写ったりX線で骨がはがれたようにうつる場合がありますがストレッチとフォーム矯正で痛みがとれて行く例が多いです。
 安静にしていても治るわけではなく、これらの実践が必要です。
 靭帯が切れてしまい外側に不安定になっているものは、靭帯再建手術を行う場合もあります。これは超音波検査やMRIで判定することができます。

  

(3)後方型野球肘

 スポーツにより肘の後方を痛めるパターンには、「上腕の後ろの筋にひっぱられておきるもの」「肘がのびるときに骨同志がぶつかっておきるもの」
があります。

①上腕の後ろの筋にひっぱられておきるもの
 引っ張られる部分の「腱の炎症」や肘の後ろの骨が引き離されてしまう「疲労骨折」が起きる場合があります。

  

②肘がのびるときに骨同志がぶつかっておきるもの
 肘を伸ばす動作を繰り返すことで骨同志が衝突し骨のかけらができたり、反応性に骨がコブ状になって曲げ伸ばしが徐々にできなくなってしまうものがあります。




  

野球肘の原因

◆野球肘は野球以外でも発生します。
◆外側型野球肘(離断性骨軟骨炎)や内側型野球肘の原因は、単なる投げ過ぎではありません。
フォームが悪い選手、肩や股の固い選手や肘のストレッチを毎日していない選手に多くみられます。
したがって、野球肘を予防するためにも、日頃から肩や股関節のストレッチをきちんと続けることが重要です。
◆3週間以上続く肘の痛み、曲げ伸ばし角度の左右差が出てきた場合には、迷わず受診してください。

  

野球肘に対する肘関節鏡手術

 「肘にメスを入れたら選手生命は終わりだ」とかつて言われていた時代があり、近年でもそのように思っている方が少なくありません。
 これはかつての手術方法が、損傷がある深い部位に到達するために正常な筋や腱、関節の袋を切って開いたり、手術後に固定をしたりすることから、瘢痕形成による屈伸制限が起きるなど、一度切開された正常な筋や腱の機能の回復に時間がかかり復帰が大幅に遅れていたためです。
 肘関節鏡手術では、創が小さく瘢痕の違和感が起きにくいこと、手術後の固定は不要なことなどから高いパフォーマンスを求めるスポーツ選手に大きな効果があります。

肘関節鏡手術の対象となる疾患
①離断性骨軟骨炎(いわゆる外側型野球肘)
②肘伸展時痛(いわゆる後方型野球肘や変形性肘関節症)
③関節遊離体(関節ねずみとも呼ばれる)

 肘関節障害に対する皮膚切開での手術は、肘の正常な腱や筋を分けて関節に至る必要があったため、肘の動きを取り戻すのに時間がかかり、1年近くのリハビリと競技制限を要します。また、手術ではなく、安静による障害の鎮静化を待つ場合でも、3ヶ月~12ヶ月といった期間を要し、それでもなお疼痛が取れず手術に至る・・という例もよくみられます。
 しかし、最近の画像検査技術により早期に発見された野球肘は、関節鏡手術により短期で競技復帰できる例が増えています。
 当院では、超音波診断装置、MRI撮影、CTを用いて肘の障害を早期に詳細に知ることにより「手術をしなければならないもの(待機しても自然治癒しないもの)」を判定しています。

  

肘関節鏡手術の方法
 全身麻酔の上、肘の側方および後方に6mm程度の小切開を計3~4ヶ所つくり、ここに細い関節鏡をいれ、他の小切開部より関節内に手術器具をいれ、テレビモニターに映る関節内の画像を見ながら手術を行います。
 関節内をくまなく確認し、痛みや引っ掛かりの原因となっている部分を切除したり摘出したりすることが出来ます。

 肘関節鏡の主な手技は以下のようなものです。

  

①遊離体(関節ねずみ)の摘出
 関節鏡視下で鉗子を用いて、正確に遊離体を摘出します。どの部位から取り出すかは経験が必要です。

  

②滑膜切除
 高周波電気メスにより異常滑膜を蒸散消去する方法です。出血が起きにくいため術後に関節が腫れることが少なくなりました。

  

③シェーバーや小ノミによる骨切除
 肘の後方に骨のトゲができていると、肘を伸ばす度に痛みを出すばかりか、ぶつかる部分をさらに変形させてしまいます。関節鏡を見ながらシェーバーと呼ばれる細い吸引付ドリルで切除することができます。

  

④ドリリング
 離断性骨軟骨炎で関節の軟骨が痛んでしまった場合に行う処置です。損傷してしまった軟骨部分やクレータの部分をきれいにした後、直径1mm程の穴を数箇所ここにあけ、ドリル先の骨髄からの幹細胞を誘導して軟骨様組織の再生を促進する処置を行います。

 

⑤骨軟骨移植
 重度の野球肘で肘の関節軟骨を大きく損傷してしまった場合、膝の前面部分の使用されていない軟骨を骨と一緒に直径6~8mm程度の円柱状に採取して、肘の関節軟骨の欠損部分にうまくはめ込む方法をとります。ドリリングでは再生が望めない広い欠損の場合に行います。多くの病院では切開手術で行いますが、当院ではこれも関節鏡手技にて正確かつ低侵襲で行うことができます。

 

肘関節鏡手術後の経過

 肘関節鏡手術の傷は目立たず、創の痛みもほとんどありません。
 肘関節鏡手術は他の部位の関節鏡手術に比べても、皮膚を切開して行った場合との術後安静期間の差が極めて大きく、関節鏡手術のメリットが極めて大きい部位です。手術後は翌日より三角巾で歩行可能となります。三角巾も2~4日ではずせる場合が多く、通常、特別のリハビリは不要ですが、各競技に合わせて肘以外の部分を含めた復帰メニューを作成します。

【運動復帰の目安】
行なった手術により異なります 。

●遊離体摘出や滑膜切除のみ行った場合
2~4週で運動復帰ができ、関節の水がたまらなければ徐々に肘も使えます。

●シェーバーによる骨切除を行った場合
2~4週でランニングなどへは復帰できますが、投球動作は削った部分から出血しなくなる6~8週から行います。日常の肘の動きには制限はありません。

●ドリリング処置や骨軟骨移植を行った場合
2~4週でランニングなど下肢の運動は復帰できます。
日常の肘の動きには制限はありませんが、ボールやバッドの使用を再開するのは術後3か月以降で関節水腫がMRIで消退し、正しいフォームや肩、股関節の柔軟性をアップさせてからになります。

 これまでの手術のまとめでは完全に他のメンバーと同じ練習、試合に出られるようになったのは平均5か月目でした。(従来の切開しての手術方法より早くなりました)投球練習を再開しても、定期的に診察や検査を手術後1年目までは行います。